さて、本書を読むにあたって私は
お「悪趣味な本が読みたい」
という衝動のもと調べた結果、コレを買うことを決めた。
つまり展開に関する悪趣味さは知ったうえで、ラストが本当にひどい(誉め言葉)のも知ったうえでこのことをいうのだ。
悪趣味だぁ・・・
あらすじに関しては調べればいくらでも出てくるし、そもそもネタバレをがっつり書く、というかそうしないと何も書けないのだが、この書評を読む人は既読者であると信じたい。
前半はつつがなく進む。大金につられた集団がミステリーにおあつらえ向きのクローズドサークルに押し込まれ、2日目に死体が発見され、そこから疑心暗鬼の殺し合いが起きる。
中盤3人目、4人目の被害者が出たところでミステリ的には解決パートと呼ぶべき場面(本書では殺人に対して探偵として名乗り上げ、犯人を決定し牢獄に放り込むことができ、その推理が正しければ探偵報酬として金が得られる)になり、参加者の一人が被害者の復讐として犯人候補を撃ち殺し、自分も自殺してしまう。
うん、ここまでは普通のミステリーだ。主人公が若干昼行燈であるのを除けばまあ普通。
この時点でなんともいえない不快感はない。しかし本書が牙をむくのはこれからであった。
あらたな物証を得、探偵役を名乗り出た主人公、第一の殺人の解決に成功する。
主人公は若干この時点で浮かれていて、そのせいでお前のでっちあげで犯人はお前だと追及され、犯人の決定が多数決で行われることから犯人として、第二の殺人の犯人としてとらえられいた男と一緒に牢獄にぶちこまれてしまう。
・・・そう、まだ第三、第四の殺人の犯人が示されていない。そして牢獄にはテレビがついていてラウンジを覗くことができる。
つまりは、犯人が他のメンバーを殺しても何もできないのをただみているしかない、そして最後は真犯人に消される・・・と思っていた。
実は牢獄の中はひどく快適にできていて、基本的に犯人以外は入れないので酒を飲んでてもヘーキと、今までの緊張感が吹き飛んでいく。
そして、主人公がミステリーオタクであり、最初に来た時から「これは〇〇の、これは△△の話にあった」とものすごい冷静な目で見ていたことが明かされる。
さらにさらに、牢獄に収容されていた第二の事件の犯人とは実は知り合いで、二人でビールをのんでどんちゃん騒ぎである。。。
どこか達観していた他の参加者と違い、一番まともだと思っていた主人公はとんだイカレポンチだったのだ。
このイベントを考えたやつはミステリーがなんたるかわかってない、出来の悪いミステリー製作者と罵倒し、いままでの殺人事件をミステリー小説のただの一部とでもいいたげな態度をとる主人公。
対して自らの行いを悔いる第二の殺人の犯人。
どっちが鬼畜なのかわかんねえなこれ。
最後のオチは、主人公と一緒に参加したお嬢様から同じようなミステリーイベントの招待をもらって終わりである。
この物語においてもっとも邪悪といえるのは、イベント主催者でも殺人を犯した犯人でもなく、第一の殺人、正しくは自殺であるが、その犠牲者である西野であろう。
この人物は運営側からパニックを起こすべく、殺人事件が起こるよう死体となる役割をもった人物で、そうすることで運営から金を得ることができた。
なぜ彼が自殺、しかも本来の予定では毒による自殺であったものを、ガードロボットに射殺されるという選択をとったのかはわからない。せめてもの反攻とは作中で言われている。
なぜ彼は自殺役を引き受けたか。病気の子供がいた?職場を救うため?理由はわからない。しかし彼がその役割を引き受けなければ、誰も死ぬことはなかった。
大学生のカップルは死ぬことなく無事結婚できただろうし、第二の殺人の犯人がパニックを起こすこともなかった。
そもそも西野は自分がそういう死に方をすれば、そうなるというのは分かっていたはずだ、そのうえで自殺し、自分は死に逃げするのは大層卑怯だと私は思う。
さて、私はこの物語をみて、一貫して恐怖を抱いた存在がある。お嬢様の須和名である。
米沢穂信先生といえば、お嬢様大好き人間で有名で、古典部シリーズのえるたそのような黒髪ロング清楚少女は最たるものだろう。
本書におけるお嬢様も一貫してえると同じ黒髪ロングの清楚系をイメージさせられる。
しかし、このお嬢様の発言の一つ一つに人間らしい感情が見受けられない。どんなに凄惨な殺人が起きようと超然とそこに佇んでいる。ひたすらに無機質だ。
正直言おう、怖い。
一挙手一投足が美しく、すべてがサイコサスペンスな女だと思う。
物語の怖さを須和名が引き立てているといっても過言ではないだろう。
最後に映画について触れよう。
ホリプロの記念作品で主演俳優はホリプロで固められているそうだ。どうでもいいね。
肝心の映画の出来はぼろくそに言われている。
私は、見ていないのでなんともいえない。はずなのだが。
この「7日間のデスゲーム」というサブタイトルからこの映画作ったやつは原作読んだのかな、と疑問に抱からざるをえない。
キャッチコピーの心理戦だの、生き残るのは誰かというのも間抜けにもほどがある。やっぱ原作よんでねーだろ。
私がつけるとすれば「究極の疑心暗鬼」だろうか、これも正確に表せているとは思えないが、さすがに「垂涎の悪趣味」とするのもあれだな・・・