新食魂島

王様は裸です、と叫びたい夜。

もうそれは岸部露伴は動かないなんよ

私常日頃、睡眠剤を飲んで眠りにつく。それを忘れた日には朝が来ようと眠れずよしんば眠れたとしてもクソそのものといっていい悪夢に魘される。その内容は大体昔みた悪夢の焼き直しで攻略法も知っているはずなのに大体デッドエンドを迎える。なんであいつらあんなに自分勝手なんだよクソが。

 

とまあ結局言いたいのはひどい夢を見るということなのだが、今日の夢はすさまじく岸部露伴は動かないだったので記憶のあるうちに小説チックにまとめるとする。夢をまとめるのはよくないらしいが。

 

 

僕の名前はよしお。

N県の国立大付属小に入学したばかりの1年生だ。

まわりの子供たちは皆素直で育ちの良い子ばかりだ。

それだけでわざわざ小学校受験をした甲斐があるというものだ。

しかし、どこにも嫌な奴は存在する。

かずや、というそいつは幼稚園こそ違えど、同じ地区に住む僕の耳にも入るくらいのクソガキで、自分より小さい子どもからおもちゃを取り上げたり、横断歩道にいるお年寄りの杖を奪い取りうろたえる様をニヤニヤ眺めているような人間だ。

なんでそんなゴミがエリートが集う付属小に入れたのかはわからない。こいつのような人間が偉くなったならば、その時は搾取を厭わない暴君になるのだろう。

今日も何人か子分を引き連れていたな、かずやもかずやだが、従う方も従う方だ。プライドというものがないのだろうか。

僕は違う。なぜなら僕は誇り高きエリート。そしてそれにふさわしい脳の持ち主だ。この誇りがある限り、僕は無敵だ。

 

「あんなやつに従うなんてどうかしてるよ、そうだね僕がぎゃふんといわせてみせるよ」

「さすがよしおだね」

「まあ僕はエリートだからね、あいつとは格が違うんだ」

そんな会話をする帰りの電車道

「ま、そのうちあいつを従えてみせるよ、じゃあね」

今日の夕飯を想像しつつ電車を降り、友人と別れる。

 

・・・ホームに降りると、かずやがこちらを見ている。

「よう」

「・・・やあ」

嫌な目だ。卑屈さと傲慢さが混ざったような目。僕はその視線から逃れるように彼を抜き去り、改札へ向かうべく階段を上る。

その時だった。かずやから離れたはずの僕に奴の目線が突き刺さるような感覚がした。

恐怖を感じ振り返るとかずやが、異形の姿と化したかずやが後ろから追いかけてきていた。

なんだあの姿は。体全体が茶褐色になり硬質化している。

しかしそれでもかずやだと認識できたのはあの視線だろう。

いや気になるが無視しよう。

そう決め込んだ僕はゆっくりとペースを乱すことなく歩く。

そんな僕の横をかずやが通り抜けると。

 

「!!?」

僕の体が異常に重たくなった。うまく体が動かせない。その理由を僕はなぜか瞬時に察することができた。

敗北感。奴に対する劣等感、それらが自分の身にまとわりついているのだとわかった。

 

敗北?誰が?誰に?

ありえない、ありえないいいいいいいいいい!!!!

僕は駆けだした、あいつを踏みつぶして僕の尊厳を取り戻すために。

 

おそらくゴールは3番出口近くの改札。僕と奴がいつも使っている改札だ。

あそこまでは歩いて3分近くだ、走って2分程度。なら余裕でおいつける。

そう僕はエリート。運動だってそう簡単には負けない。あんな奴に負けてたまるか。

 

駆ける。駆ける。・・・ダメだ追い付けない。

アイツはその鋼のような肉体にビビった相手がよけてしまい直線的に走っていけるのに対し、体の小さな僕は人を躱しながらでないと走ることができない。

クソ、余計なスタミナのロスだ。それでもまだ完全に振り切られないのは地力の差があるということ。

 

まずい、と思った矢先、目の前に近所の不良高校生たちがやってきた。よし、あいつらならよけないだろう。

そう思った。だが。

「うお、アブね」

!!クソ不良どもよけやがった!普段はイキっているくせにこの使えないヘタレどもめ、死んでしまえ。

僕はかずやがあけた穴を通り抜ける。不良が

「あぶねえだろクソガキ!」

とキレているが知ったことか。

 

クソクソクソクソ、このままだと負ける。この僕が、エリートの僕が!あってはならないそんなこと!こうなったら!

 

「おーいぼくのお財布かえしてよー!」

と僕は叫ぶ。僕はエリートなだけでなくルックスも愛らしい。対してかずやは醜悪だ、犯罪者ツラといってもいい。

この状況、周りには純粋な子どもといじめっ子の構図に見えるはず!

ならば!

 

「ちょっと坊や、止まりなー」

!!来た、バカな大人だ!バカな大人がかずやの前に立ちふさがりかずやを抱きとめた。

完全にかずやのスピードが死んだ!僕はその横を、全速力で駆け抜ける。

後ろからおっさんの呼びかける声がするが無視。

これで勝った。

ざまあみろかずや、お前のようなゴミが、エリートの僕に勝っていい道理なんてないんだよ!

バカが!ゴミゴミゴミゴミゴミ!一生僕の後塵を拝していろあははははは!!!!

 

勝利を確信した僕は、振り向く程度の余裕すらあった。スピードを落とし、かずやが落ちていく様を見ようとした。

 

「のわあああああ!な、なんだこの子供は!」

おっさんの叫ぶ声。それと同時に僕の目に入ってきたのは

 

大人を抱えながら全速力でこちらに向かってくるかずやの姿だった。

バカな!不可能だそんなこと!

激しく精神的動揺をした僕は、すぐにゴールに向かわねばならないという思考をすることができなかった。

再び僕を抜き去るかずや。そしてコンマ数秒、走らねばならないことに気づいた僕がゴールへ向かう。

差は1mもない、僕なら抜き返せると思ったその刹那。

 

かずやは抱えていた大人をこちらに投げつけてきた。

その大人に足を取られる僕。

そして。

かずやが改札を駆け抜けていった。

 

・・・

・・・・・・

負けた。この僕が?ばかな。

ありえない。

ふ、まあいいさ僕はエリート、この程度の勝利くれてやるさ。

 

「認めたな、今。敗北を」

どこからともなくかずやの声がした気がした。

しかし今はどうでもいい、さっさと家に帰って宿題でもしよう。

そうして僕は改札を出た。

出ようとした。

出られなかった。

 

「改札で邪魔だガキ!」

いきなり蹴られる。・・・僕を蹴ったのはいかにもニートといった不細工だ。許しがたい、このエリート様に向かって!

怒る僕は、別の大人に踏まれる。女だ。ヒールが刺さって痛い。

女如きが僕を邪険に扱うなんて!

あまりに不愉快だったので、おやつに何か買おうとした。

「あんたに売るものはないよ!」

売店のババアにキレられた。

なんだ?いつもなら

「坊や勉強頑張っているのね」

といってくれるのに!

 

もう一度改札を出ようとする。出られない。

なんだ何がどうなっている。疑問と不安でつぶれそうになる。

視線をあげると、かずやがこちらをニヤニヤしながら見ている。

そして脳内に声が響く。

「みじめか?でもしかたねえよなぁー、だってお前

敗北者だもんなぁ、ま、一生負け犬としてそこで過ごせよ」

・・・一生?ここで?嫌だ。

「ふざけるな、出せ!僕を誰だと思ってる!」

「雑魚だろ?この世の最底辺のなぁ負け犬君」

「出せと言ってるんだこのゴミが!」

「いやだねえ」

なら、自力で脱出するまでだ!

「おう頑張れよ精神が折れる前に出れるといいな」

 

そういってかずやは去っていった。

 

その後いろいろ試してはみた。改札の強行突破、別の改札からの脱出、窓からの脱出。

どれだけ時間がたっただろうかこの牢獄から出ることができない。

出たい、家に帰りたい、だしてくれ!

「なんでもするか?」

と頭の中で響く。

「なんでもする!出してくれ!」

「しょーがねーなー出ていいぜぇ」

 

こうして僕は家に帰ることができた。

 

翌日学校でかずやが話しかけてきた。

「おい教科書忘れたよこせ」

と言ってきた。

僕は断ってやろうと

「はい、喜んで」

と教科書を差し出した。

 

移動教室の時には

「歩くのめんどい犬になれ」

と言ってきた。

ふざけるな、と頬を叩くつもりで

「はい、喜んで」

と四つん這いになった。

 

僕はもう、奴に逆らえない。